批判で傷心の男が働くまでの軌跡

働きたい

いや、働かねば

 

 

半ば強迫観念に苛まれながら

バスで行く道をなぜか歩いていた

 

 

 

「働けるかどうか不安です

 

働きたい、働かねば

それと同時に自信がなかった

 

 

一度集団の中で生きていけず

孤立し、そこから逃げ出したから

 

 

中学の部活が嫌で逃げ出し

ずっと家とコンビニを往復してきたことから

 

 

すっかり自信をなくしていた。

 

 

部活でさえ嫌がり、やらなかったのに

みんなと共に働くことなんてできるのか?

 

 

また逃げ出したりしないか?

自分で疑心暗鬼だった

 

 

しかしどう考えても働かねばならない

 

 

19の時、高校を卒業してから

働かねばという思いから

 

 

サポートステーションなる

就職支援のところに通っていた

 

 

月一ほどの頻度で。

 

 

どう考えても働かないといけない

いずれ両親はいなくなってしまうから

 

 

しかし、怖い

僕にできるのだろうか?

 

 

そんな思いで通っていた。

 

 

「あれからどう?

 

kさん。毎月のように話す若い女性の方

 

 

かなり特徴的な声で

やや低め

 

 

女性の声とも、男性の声ともつかず

また、やや声がねちっこい

 

 

ロングの髪はほんのり赤がかり

まつ毛が目立つお化粧だった。

 

 

しかしそんな見た目とは裏腹に

彼女は相談役としてはぴったりだった

 

 

「ええ、あれから、、、んーと

「うんうん、、

「近くのコンビニで働くのがいいかなぁって思って

「ほぉ!

「道路を挟んだところにローソンがあるんでそこで働こうかなぁって

「うんうん!

 

 

彼女は決して口を挟まない人だった

 

 

口ごもり、沈黙し

目を晒しまくる僕に対しても

真摯に話を聞くことに集中していた

 

 

「それならさぁ、アルバイトの練習、してみる?

「?なんですか?

「ジョブトレーニングって言ってぇ、働く訓練ができるのよ

 

 

どうやらそこでは働く練習みたいなものができるらしい

 

 

電車で20ぷんほど、バスで10分ほどのところにあるみたいで

 

 

そこではお年寄りたちがラジオ体操などしているところらしい

 

 

僕が怖がっていたのは、人間関係から逃げ出さないかだ。

 

 

以前は集団の中で馴染めず

自分から逃げ出した。

 

 

しかし数回で終わるとのこと

 

 

数回なら、、、あるいは僕にも

 

以前できなかったことが、できるかもしれない

 

 

「、、、お願いします

 

 

別の日、1人で行くと思ったら

なんと、kさんも一緒についてきた。

 

 

そんなことがあっていいのだろうか

 

 

2人で電車でやられて

バス停までつく

 

 

そこで僕はおかしな提案をした

 

 

「歩いていきましょう」と僕

 

 

どうしてそんなことをしたのか自分でもわからない

 

 

別に二百円くらいなんだし

迷うかもしれないのに

 

 

なぜか歩くことを選んだのだ

 

 

未知の場所を

 

 

kさんは一切異議を挟まなかった。

 

 

何を話したのかあまり覚えてないけど

雑談しながら歩いた

 

 

途中に周りがコンクリートでできた川があった

 

途中に車が大量に置いてある場所があった

 

中には車の研修所もあった

 

 

そんなことを話題に出しながらなのか

何を話したのかは覚えてない

 

 

けど少なくともkさんから話題を振ってくれ

僕もすぐにすぐに口を開けた

 

 

30分ものある道をあっという間に歩ききると

建物が見えてきた

 

 

心臓が縮むような感じがする

今もそうだけど、バイトに行く直前はこんな気持ちだ

 

 

歩いたからか、緊張からかわからないが

動機が激しくなった気がする

 

 

また逃げ出してしまうのではないだろうか

また白い目で見られるのではないだろうか

 

 

漠然とした不安を抱え

建物入り口へ

 

 

四角い建物で

大きな窓がいくつもあるのが特徴的だった

 

 

まるで豆腐に穴が開いたような、そんな建物だ

 

 

さ入ったことのない場所

 

僕は一瞬立ち止まり

そして自動ドアを潜った

 

 

「おお、おはよう、oくんだね?

 

 

でむかえてくれたのはやや身長が高い30だい男性、fさん

 

左頬にあるホクロが特徴的な人だった

 

 

「この子がジョブトレーニングで、、、」とkさん

 

「ああ、話をは聞いてます」とfさん

 

 

何か話しているみたいだけど

僕はキョロキョロしていた

 

 

子供たちが丸いテーブルに4人くらい囲んで

カードゲームをしている

 

 

何を話しているのかわからないが

なんだかたのしそうだ

 

 

僕は口元を綻ばせた

もしかしたら、、、できるかもしれない

 

 

「じゃあoくん早速頼みたいことがあるんだけど、、

 

「え?はい、、

 

とわたされたのは

 

 

顔よりも大きい青いバケツ

一枚の黒いシミがある雑巾

 

 

「これであそこの窓全部拭いといて

 

 

そう言ってそこまで歩いていくfさん

僕もバケツと雑巾を持ってついていく

 

 

「こんな感じで

 

 

そう言って実演してくれるfさん

1枚の自分の背丈ほどあるガラスを拭いていく

 

 

「こんな感じで、あとoくん、お願い

「あっはい

 

 

そういうと、建物の中へ入っていくfさん

 

 

残されたのは、僕と、ガラスと、バケツと、雑巾と

後は照りつける太陽の光だけだった。

 

 

雑巾を上へ、下へ

黒くなってきたらバケツに突っ込む

 

 

手でゴシゴシと雑巾を洗っていると

水が少しだけ灰色になっていく

 

 

もう真っ黒。

 

 

後何枚か横を見ると

後半分も残っていない

 

 

後せいぜい、4〜5枚

 

 

なんだ

 

 

別に誰と話すわけでもなく

 

 

口を閉ざして

腕を動かし

雑巾を黒くしていく

 

 

別になんてことはない作業

誰でもできること

 

 

何を僕はこんなに怖がっていたんだろう

 

 

後4枚

 

 

「端の汚れ、取りにくいな

 

 

やや背伸びして、端に雑巾をあてがっていく

 

 

後3枚

 

 

汗が首を流れていく

 

 

ただ僕の目は汚れを捉え

ただひたすらに雑巾を動かしていくのみ

 

 

後2枚

 

 

「これで終わりか

 

 

なんだ、大したことないな

 

 

バケツの水は真っ黒

雑巾の縛りもやや甘い

 

 

バケツの水、取り換えればいいのに

もっと強く、絞ればいいのに

 

 

だけど、綺麗にできている

 

 

僕は初めて働くということを実感した。

 

 

後1枚

 

 

「それではまた、よろしくです。

「ありがとうoくん!また。

 

 

仕事してる間、kさんがどこにいたのか覚えてないが

帰りにもkさんがいた

 

 

僕はなぜかバスは利用せず、歩いて帰った

kさんは口を挟まなかった。