圧に消された2人の物語

指先を動かしていく

 

瞬時に掌を返して

人差し指を曲げて

左指も動かして

 

 

ルービックキューブをいじっていく

 

手のひらに収まるそれは

ただのカラフルな四角い箱

 

赤、青、白、、、

6色の色がモザイクのように1面を彩っている

 

 

それを僕らは1つの面を1つの色で揃えたい

ないしは6面全部揃えたい

 

 

大丈夫、指先は自由に動く

左手で持って

右手を器用に動かしていく

 

 

10秒、20秒、、、

時間が経つごとに

 

9×9のモザイク色がだんだん

揃っていく

 

 

目を見開いて、口を閉じて

ひたすら動かしていく

 

 

あぐらをかいて、2人で並んで

 

 

「こら!そこ!何やってんの!!

 

 

一斉に周りの人がこちらを見る

その視線は忘れることができない

 

 

「全く、、、大事な会議だというのに、、ルービックキューブなんかいじって、、、、

 

 

部活が終わった後のホームルーム

 

吹奏楽部の部室の中

先輩、後輩含め三十人もの人が

 

 

おとなしい女の子が先生を直視しながら机に座ったり

またはイケイケ茶髪の先輩は退屈そうにあくびをしながら壁に寄りかかり

 

 

そして僕らは物陰に隠れ、このパズルを2人であぐらを描いていじっている

 

 

「チッ」

 

 

僕にしか聞こえないであろう舌打ちで

彼はそっとスクールバッグに未完成のモザイクをしまう

 

 

彼はそっぽを向け

僕は改めて先生の方を見る

 

 

整った顔と、色白、ほんのりかかる茶髪

 

 

彼は常にメガネをかけているが

 

時折メガネを外すと爽やかなイケメンになる

 

しかし彼はそんなことは気にもかけていないようで

モテるように見えるがそうでもない

 

 

たとえ同級生の女の子から告白されても

 

「あんな納豆臭え女、、、」

 

と一蹴するのだ。

 

 

何はともあれ

自分が好きなことになると構わず没頭する子だ

 

 

ルービックはその一部なだけだ

 

 

厚紙とカッター、セロハンテープがあれば

3×3の立方体パズルを作り

 

 

押すと静電気が出るおもちゃがあれば

静電気を強くして改造し

 

 

ボタンを押すと音が出るストラップがあれば

分解してしまう。

 

 

どこを押したら音が出るかを理解し

1センチにも満たないそのボタンを露出させてしまうのだ

 

 

僕は何度も機械の内部を見せてもらい

ただただ感心するばかりだった

 

 

そんな彼にルービックキューブを何も見ないで揃えるところを見せると

 

 

目を輝かせて飛びついた

 

 

自分でスピードキューブなるものを買い

学校に持ち込み、休み時間になると

ひとりガチャガチャと動かし始める

 

 

1ヶ月だか、2ヶ月だか知らないが

彼はあっという間に何も見ずに揃えられるようになった

 

 

「あらもうこんな時間なのー?それではまた明日4時に集まるように!

 

 

「お疲れ様でしたーー!

 

 

僕は気の入らない声で返事をし

ふと彼を見ると

 

またガチャガチャと音を鳴らしているのだ

 

 

前へ、前へ

息を荒げながら校門に向かう

 

 

友達も仲間も、ひったくれもない

早くしなければ

 

 

18時を過ぎて校門を出ようとすると

怪物教師が現れる

 

 

ジュディと呼ばれるその怪物は小柄ながらも

校門の番人だった

 

 

18時を過ぎるときつい説教が聞かされ

10分か、20分かした後校門を開けてくれる

 

 

早くしないと、奴が現れる

 

 

残念ながら今回は1分ほど手遅れだったみたいで

すでに人だかりができていた

 

 

彼らもまた、校門を通らなかった人たちだ

 

 

怪物ことジュディはなにを喋っているのかもよく聞き取れないが

何か怒っているようだ

 

 

その中で雑談を始める人

ジュディをなにやら説得しようとするもの

 

 

僕のように沈黙し、ただ、時を待つもの、反応はそれぞれだ

 

 

今回もどれくらい時間が立ったかわからないが解放してくれた

 

 

 

ゾロゾロと校門を出る仲間たち。

中には校門の外で、友達を待っている人もいるみたいだ

 

「よお

 

校門で一息ついていると

声が聞こえてきた

 

 

振り向くと特徴的なメガネが目に映る

 

 

見ると三人ほど集まって何か楽しそうに話している

 

 

身長が高い女と

全身が赤く腫れ上がっている男と

そして彼。

 

 

そして僕は30分ほど

楽しそうな彼らと共にくらい夜道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと彼と2人になる

先程四人で彼の掌が大きいという話になっていて気になっていた

 

 

試しに僕の掌と彼の掌を比べてみた

 

手と手を合わせ

掌を重ねる

 

 

すると背は僕の方が高いのに

彼の方が一関節分ほど、掌が大きく、指が長かった

 

「えー大きいね

 

少し大きいとか、そんな比じゃない

明らか大きかったんだ

 

 

どうして今まで気づかなかったのだろうか

 

 

そんな彼なら、手のひらに収まるあのパズルも

僕より早く揃えられるかもしれない

 

 

「じゃーなー

 

僕の家の前で別れる

 

 

しかし、それから

彼がどうなったかはわからない

結局どうなったのか?

 

 

先輩とのすれ違いざまの腹パン

他の生徒がいる中で胸ぐらを掴む先輩

 

 

突然頭に衝撃が走り

持っていた漫画を掠め取られた感覚

 

 

眉間にシワを寄せ口やかましく、甲高い声で

さえずるちびっこい先輩

 

 

多分僕に言っているんだろう

何を言ってるのかよくわからないし

何が言いたいのか伝わってこないけど

 

 

ただ僕はその中で特に言い返すこともなかった

なんか言ってるなと

 

 

しかし、何かしらの恐怖は感じた

一斉にこちらを見る無表情の目

 

 

漠然とした恐怖感

腹の底からなにか湧き出てくるような

そんな恐怖感

 

 

いつの日から、部室に

ましてや、上履きを履くこともなくなった

 

 

人への恐怖感だけを常に持ちながら

 

 

彼があの後ルービックキューブを早く揃えられるようになったのか

またはやめてしまったのか知らない

 

 

ただ知ってるのは、ふと立ち寄ったコンビニで

彼が食い入るように漫画を見ていた後ろ姿

 

 

話しかけることが怖くて、気づかれないようにコンビニを出た

 

 

その時の彼はスクールバッグを肩にかけ

直立不動で漫画を見ていた

 

 

隣には誰もいなかった