フリーター、家を売る

父が亡くなった。

 

小火で、焼けて死んでしまった。

 

 

棺に入った父もみた。

 

泣いた。涙が溢れてしかたなかった。

 

 

色々思うところもあるなか

 

僕には試練があった。

 

 

 

「燃えた家、どうしよう、、、、

 

 

 

父親は一人暮らしなので

家まで電車で向かう

 

 

一緒に母と妹と

それからお父さんのお兄さんと、そのお嫁さん

それと僕と、5人で。

 

 

未だに父親が死んだとは信じられない思いの中

 

 

家の玄関の前に着くと驚いた

何にも変わっていないように見えるのだ。

 

 

真っ白の2階建ての一軒家。

外観は全く変わっていない。

 

 

「本当に小火が起きたのか?

 

 

疑問でしかなかった

 

 

だけどいざ扉を開けると

 

 

鼻につく異臭

 

焦げ臭い匂い

 

玄関に足跡

 

僕は立ち止まった。

 

 

しばらく立ち止まり玄関に上がる

 

 

土足で

足跡が居間まで続いている

 

 

見た目は変わらない。

匂いがすごいのと

足跡があるだけ。

 

 

居間までの廊下も焼けたような後はなかった。

 

 

向かうのは出火もとの居間。

 

 

妹と母は後ろをついてきている

 

 

居間の扉を開けると目に映るのは

 

 

水浸しのテーブル

 

薄暗いなかの散乱した黒いゴミ

 

鼻につく何かが焼けた匂い

 

溶けた電話

 

「、、、、、、

 

 

出火もとのキッチンへ

 

よくわからなくなった黒いゴミの山を踏みながら

 

 

水を吸っているのか

ぐしゃぐしゃと音がする

 

 

テーブルを曲がり、キッチンへ

 

 

すると

 

より黒こげになっているキッチン

 

焼けたカーテンの後

 

何より、2階への天井が貫通している

 

 

1.2mもあろうでっかい穴からは

2階の木の天井が見える

 

 

、、、、、、

 

 

僕は訳が分からないまま

 

おばちゃんが

ショウケンとか訳のわからないことを言い始めるので

 

 

僕も宝探しをする様に黒いゴミの山を探し始める。

 

 

途中から

あまりのショックなのか

あるいは現実逃避なのか

 

あるいは気でも狂ってしまったのかどうか

わからないが

 

 

「宝探しみたいで、楽しい!

 

 

とか言いながら黒いゴミをかき分けていった。

 

 

結局何も見つからなかった。

 

 

帰る頃にはきていたカーディガンのこげついた匂いがしみつき

次の日も、焦げ付いた匂いは取れなかった。

 

 

燃えた家は半焼だった。

 

 

父親が亡くなり

 

手続きが色々必要だと言う

 

 

父のお兄さん

叔父さんが言うには

 

 

色々と手続きが必要らしい

 

 

リサイショウメイショなどと言う謎の紙切れをもらい

 

 

区役所と

 

市役所

 

さらには税務署に行かなくてはならないらしい

 

 

しかも、それらは僕らでやらなくてはいけない。

 

 

父親が亡くなると

その後の手続きの責任は

 

 

息子と娘に第一に来る

 

 

僕と、妹だ。

 

 

僕がやらなくてはいけない

 

 

コンビニバイトの僕が?

口座開設くらいしかやったことのない僕が?

 

 

ワケワカラン

 

 

おじさんがいうには

 

 

どうやら家を売らないといけないらしい

 

 

3××万という数字を出されても

現実味がなかった。

 

 

「もっと高くなるんじゃね?

 

 

何もわからないが、売るなら高い方がいい

 

ネットでよくわからないまま6つの会社に

査定に出したら

 

 

「あの、家あるんですよね?

 

 

と言われ、いたずらに間違えられながら

 

査定額は3××万から5××万に上がった。

 

 

なんだか不思議な気分だった。

 

 

いまだに父が死んだこと

家をあること

2××まんも査定額が上がっても

 

 

未だに現実味がない

 

 

いつもは

レジで接客して

おにぎり陳列してるだけだからだろうか。

 

 

ともかく家をどこにあるかはわかった

 

 

おじさんは

 

車のこと、葬式の準備など

いろいろやってくれたみたいだ

 

 

なんと心強い。

 

 

当時の僕はそれがどれだけ助けになるかもわからないまま

 

 

とにかく、家を売ることに集中することにした。

 

 

ただ、家を売るのに

いろいろと必要なものがあるらしい

 

 

リサイショウメイショだか

税金だか、年金だか、よくわからないまま

 

 

どうやら市役所、区役所

また税務署に行かなくてはならないらしい

 

 

葬儀屋さんに死後の必要手続きに必要なものの紙をもらい

 

 

一つ一つこなすことにした。

 

 

だけど一つ困ったことがある

それは僕と妹と

 

 

どうやら、もう1人、お父さんには息子がいるらしい

 

 

僕のお兄さんに当たる。

 

 

厄介なことにお兄さんは一切関わるつもりはないらしい

 

 

しかも相続手続きするには

子供全員の同意が必要不可欠だ

 

 

手続きは全部僕と、妹でやらないといけない

なんてこった

 

 

そこでおじさんが

彼から委任状をかっさらい

僕らに渡してくれた

 

 

この紙があれば彼がいなくても手続きができる

 

 

委任状を手に持って

手続きに入る

 

 

まずは年金を納めないといけないらしい

 

 

幸いバイトして貯めてるお金はある

 

 

30万?なんだそれ?

なんの冗談なんだ?

 

 

ともかく手持ちにはあったので

それで窓口に行って支払う。

 

 

家を売れば3桁入ってくるから

しばらくの辛抱だ。

 

 

次に年金控除の手続きだ

 

何かとこの謎の

リサイショウメイショなるものが役立ってくれた

 

 

家が燃えるといろいろ控除してくれるのか

 

 

なんだリサイショウメイショ神か。

それをとってくれたおじさん神か。

 

 

それともなんだ、控除してくれるスタッフさんが神なのか

 

このお金は税金としてみんなが払う分が回っていたんだろう

 

国民全員が僕を助けてくれるような

そんな感覚がした。

僕もちゃんと年金を払わねば

 

 

最後に父が持っていた銀行口座のお金を引きださなければいけない

 

 

銀行に行って

委任状を出す

 

 

しかし、委任状だけではいけないらしい

 

 

イサンキョウギブンカツショ?

なんだそれは、それが必要なのか?

 

 

しかし僕のお兄さんの電話番号も知らないまま

また、何もかもわからないままやっていてすっかり混乱しきっていた。

 

 

どうやらこれはやらなくても家は売れるということだけ知って

銀行口座はそのままで放置になっている

 

 

今も父の口座は手付かず

5〜6万ほどはあったはずだけど、どうしようもない。

 

 

このお金は時間が経つと銀行のものになるらしい

そうやって銀行は存続していくのかなと思いながら手続きを済ませていく

 

 

ほかにもなんやかんやあったがあまり覚えてない

 

 

少なくとも税務署、市役所、区役所には何度も足を運んだ。

 

 

苦労して、バイトもしながら

3ヶ月ほどで全ての手続きを終わらせた。

 

 

とうとう、家を売る時が来た。

 

 

 

 

いろんな人が集まって

いろんなことを言っている

 

 

しょうじきなにをいっているのかもわからないけど

 

 

どうやら、名前と住所と、ハンコをたくさん書かないといけないらしい

 

 

5人ほどの大人が入り

僕と妹と、母。

 

 

そこで僕と妹は淡々と名前、住所、ハンコを押していく

 

 

10こくらいの書類があり

だんだん疲れてくる

 

 

「なんか、たくさん書いて楽しくなってきました!

 

 

信じられるだろうか、実際に僕が言った言葉だ。

 

 

周りの人は何も言わなかった。

 

 

そりゃそうだ

僕がこれを署名しなかったら

 

家は彼らのものにならない。

 

 

彼らも家を買いたいからここにいるのだ

僕次第だ。

 

 

それなのにこの発言である。

 

全く我ながら無知すぎて愛想が尽きる

 

ただそれでもやりとおせたのも事実だ。

 

 

自分と、妹と、遺産を分け合うことになる

 

5××万を2等分ではなく

いろいろ経費がかかったが

 

 

それでも、1××万のお金が入ることになった。

 

 

いつもはコンビニで働くだけ

 

レジと品出ししかできないが

 

 

そんな僕でもできた瞬間だった。