居酒屋オーナー、父の生き様

ファミレスにて

 

父は会計だけ済ませて

僕と、妹だけを残して出て行ってしまった

 

 

その次の日死んだ

キッチンで燃えて、死んだ

 

 

葬式は親戚のみ

10人にも満たない人たち

 

 

体育館ほどの広さどころか

学校の教室ほどの広さすらない

 

 

こじんまりとした、真っ白い個室

 

 

そこで父は

もう二度と開くことのないまぶたで

棺の中でそこにいた。

 

 

 

父はたくさんの人と関わるのが好きな人だった

反対にこじんまりとした家族に対しては素っ気なかった。

 

 

父は弁当屋に勤め

そこで母と知り合い、結婚

 

自営業をやり始めて

席30ほどの居酒屋を経営して

 

たまに公園にて

30人ほどの人をあつめてバーベキューなどをやって

 

 

自宅のキッチンで、焼けて死んだ。

 

 

顔は焼けておらず

煤などがほおについていたが

 

全体として血色もよく

顔は綺麗だった

 

 

今にも起きだし、仕事に使う調理器具を

車から運び出しそうな、そんな顔で棺にいた。

 

 

泣くつもりは一切なかった

あんまり父が好きじゃなかったから

 

 

言うなら嫌っていたし

一刻も早くこの世から消えてくれないかと思っていたくらい

 

 

しかし、棺にある父の顔を見たら

涙が止まらなくなった

 

 

こみ上げてきたどうしようもない感覚

 

 

そして後悔した

 

父が何よりもやっていた仕事

 

それを一度も聞かなかったこと

手伝わなかったこと

 

 

父は母が結婚したのは父が40ほどの時

 

 

弁当屋で働く父と母が

付き合い、結婚

 

 

この辺は母の方が断然詳しいのは間違いない

何せ僕はまだいないから

 

 

そしていつからかわからないが

自営業で居酒屋をやることになる

 

 

勇気のある人だ

何をどうしたらいいのか最初はわからないだろうに

 

 

店を、場所を用意しなくちゃいけない

お金もかかるだろう

 

飯も用意しなくちゃいけない

それにもお金もかかる

 

また調理器具も必要だ

 

実際、僕が子供の時は

家が調理器具で溢れてたくらい

 

 

銀色の2.3mはありそうな長い棒や

これまた銀色の四角い箱のようなものが

 

 

玄関の廊下に散乱してた。

 

 

気になって触ってみると

なんだかベタベタする

 

キッチンにある換気扇のベタベタに近い感じ

 

 

そんな調理器具を車に乗せて

店まで運ぶのだ

 

 

またそんなことまでやっても

売り上げが上がらなくなったらそれまでだ

 

 

店を畳まなければいけないし

調理器具も無駄になる

 

 

けれど父は最後の最後まで

生計を立てていた

 

 

死後の手続きでわかったことだけど

年金も滞納なく収めていた

 

 

間近3か月分くらいは未納だったけど

それ以外は全部

 

 

しかもそれらを全部1人でやっていた。

 

 

誰かからのアドバイスとかは必須かもしれないけど、それでも

 

 

家で、旅行で

彼が仕事に対して面倒だとか言うことは一度もなかった。

 

 

一度だけ

「カラオケやってみたけど、あれはダメだね

 

 

みたいなことを言っていたけど笑

 

 

ともかく、子供である僕に

手伝えとか言うことも一度もなかったし

 

 

店のこと、資金繰りのこと

これらを全部1人でやっていた。

 

 

全部失う危険もあると言うのに、だ。

 

 

しかもちゃんと経営して

旅行にも出かけ

 

 

また、年金も納めていた。

 

 

こうやって書いていくと改めて

結構すごいことやっていたのではないかと思う

 

 

彼はそれらを1人でやっていた

どうしてそこまでできたと言うんだろう

 

彼が、父がどう言うことが好きだったのかは知らないけど

 

 

大人数でバーベキューをよくやっていた。

 

 

例えば夏休み。

 

 

夏休み、特にお盆になると

父は必ずと言っていいほど実家に帰っていた

 

 

横浜から、千葉へ

 

 

白いワゴン車に浮き輪とか、などを詰めて

4人を乗せて

 

あるいは高速道路で

あるいは船に乗って

 

 

3時間以上かけて

千葉まで車を走らせていた

 

 

何を話したのかはもう覚えていないけど

僕は助手席に座っていた

 

 

高速道路で前の車が2〜3台ある中で

車は快速

 

よくメーターが時速100キロを超えていた

 

 

その中彼は何かしら取り止めもないことを呟き

そして僕か、妹か、母が反応する

 

 

反応が鈍かったり、返事がなかったりすると

父はなんだか不機嫌になる

 

 

しょうがないから何かしら元気に振る舞っていた

 

 

そんな高速道路を抜けると

 

 

東京湾フェリーなるものに着く。

 

 

車を乗せて海を進む船だ。

まずでかい。

 

 

車が30台は余裕で入りそうな

鯨も真っ青なくらい大きい

 

 

ゾウなら100等分はあるかも知れない

ともかくでかい。

 

 

船に入ると、1時間もの、大海に乗り出す

 

 

周りはただ広い海のみ

 

 

カモメが10羽ほど

船の速度に追いついてくるように

漂ってくるので

 

 

父はかっぱえびせんを買って

投げて餌をやっていた。

 

 

かっぱえびせんを投げると

カモメの群れが一斉に反応し

 

 

海に落ちていくえびせんを1羽のカモメが追いかけていく

 

 

海のすれすれのところまで追いかけ

そしてまた僕らの頭上10mうえ辺りをまた漂い始める

 

 

カモメと戯れると

だんだん陸が見えてくる

 

緑。山に、森林。

ただただ緑色

 

 

船旅も終えて、また車を走らせて

そんで、父の実家に着く

 

 

これまたでかい、そしてボロい

畑や謎の納屋などもある

 

 

周りは田んぼだらけで

と言うか田んぼのみ、田んぼしかない。

 

 

「おっ!トンボ!ほら翔吾、あれ!!

 

 

トンボを指差しする父と

それを探しキョロキョロする僕

 

 

わからない

父は指差しをよくするが

 

 

それがなんなのかわかったのは多分10回に2〜3回くらいだろう

 

 

「どこ?なに?

「ほら!!あれだよ!あれ!

「え!?どこー?

 

 

だいたいは僕はトンボとかを見つけることができず

父はやや不機嫌になる

 

 

見つけるフリをして

すごいとか言えば上機嫌になったんだろうか。

 

 

それはともかく父の実家は

敷地が広いので

玄関前でバーベキューをやることもしばしば

 

 

仕事柄だろうか

よく父は肉を焼き

みんなに配る役目だった

 

 

肉をなにやら大量に持ってきて

野菜もこんもり

 

 

ピーマンだか

あるいは玉ねぎだか

 

 

どんどんバーベキューセットの網の上に置いていく

 

 

僕はうちわで火力を高めていた

たまに炭が宙をまい

 

 

目を擦り、ゴホゴホ言いながら

 

 

紙皿を持ち

肉を焼き上げ

みんなに渡していく父は

 

 

声をあげ

そして笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家のリビング

いつもは飯を食うところだけど

今日は勝手が違う

 

 

テーブル越しに何やら父と母が突っ立っている

 

何か大きな声で、眉間にシワを寄せて大声を上げている

 

お互いに、声を上げて

 

 

なんだろう、なんか怖い

 

父が何やら怒鳴る

すると母も負けじと声を荒げる

 

 

父、物なげる

 

床に米散らかる

 

母も米を浴びる

 

母、服を投げる

 

僕、泣く

 

父、こちらをみる

 

「泣くなぁ!!

 

ほおに衝撃、痛い

 

涙を堪える

しかし、こみ上げる涙

 

母、何やら呟きこちらにくる

 

 

、、、、これから先のことはあまり覚えてない

 

 

それからまもなく、僕の住む家は変わり

生活から父が消えた

 

 

あれからもう二度と起きない父を目の当たりにするまで

 

 

僕は父を軽蔑していた

あの一件があったから。

 

 

だけど考えてみたら

僕に対しても全く何もしてくれないわけでもなかった

 

 

朝5時、2人で車に乗り、市場に行ったこともある

翌朝、2人で車を走らせ、海を見に行ったこともある

 

 

僕と妹とで

寿司を食いに行ったこともある

 

 

棺の中で、花まみれになっている父を見て

 

 

仕事の話を少しでも聞かなかったこと

仕事を少しでも手伝わなかったこと

 

 

自営業で、1人で経営する父に対して

何もできなかったのか?

そんなことはなかったはず

 

 

いいところは一切なかったのか?

そんなこともない

 

 

僕は父と母と妹と

4人で家で暮らしたかった

 

 

しかしどうしようもなかった

 

 

どうすることもできなかった

 

 

しかし話を聞くことはできたんじゃないか?

もっと興味を持てばよかってたのではないか?

仕事を手伝うことも十分できたのでは?

 

 

少なくとも、ファミレスでもっと話を聞くことはできたのでは?

 

 

かつての両親の離婚自体はどうすることもできないが

 

 

かつての僕自身の振る舞いに疑問を感じた

 

 

父は自営業で居酒屋を経営して

たまに30人くらいあつめてバーベキューなどをやって

 

 

自宅で、夜中1時に、キッチンで燃えて死んだ

 

 

葬式はこじんまりとし

親戚7〜8人に囲まれた

 

 

お客さんはいなかった。

 

 

僕は葬式に参列してくれる友を作ろうと思う

コミュ障コンビニ店員、jkのLINE獲得

「〇〇くんみたい」

 

 

当時とあるフィギュアスケート選手がテレビで有名になっていた頃

 

 

1人のjkにそう噂されているのを妹から聞いた

 

ーーーーーーーー

【面接の電話】

 

 

僕は

じっとスマホ画面を見つめる

 

 

吹き出しの単語

一人ひとりのやりとり

 

 

別に特に友達がいるわけでもなく

話すことが得意でもなく

 

 

ましてや、子供からぶっきらぼうな自分が

 

 

jkとやりとりしているしているなんてにわかには信じられなかった

 

 

「あ、はい」

「それでは14時ごろお待ちしてますね!

 

 

全身が高揚感で暑く感じる

額から汗

震える唇

 

 

スマホを耳から目の前へ

赤いボタンと、緑のボタン

左右にわずかに揺れる人差し指

 

 

スマホを静かに置くと

mサイズの白いレジ袋から

紙を一枚テーブルに置く

 

 

ボールペンを手に持ち、机に向かう

 

ボールペンを紙に近づけ

 

はた、止まる

 

「あれ、今日何日だっけ、、?

 

机に置いたスマホの右側を押す

 

「あー、、

 

 

数字を書き込み

 

今度は

名前の欄を埋めていく

 

 

ものの5秒ほどで書き終えた後

 

 

あるいは筆が止まり

あるいはスマホを見て

あるいはスマホを撫でで

あるいは書きながら

 

 

そんな調子で、時計の針は

決まり切った規則で動き続けていた

 

 

 

 

 

「すみません

「あ、面接の子ね

 

 

ビカビカのコンビニの店内をくぐり

銀色の扉をくぐると

 

 

薄暗く、狭いバックルームに

1人の男性がパソコンの前で座っていた

 

 

笑顔。

20代に見える若い男性で

好青年に見える

 

 

前髪は長く、左右に分けて

剃り残しもなく、何より若く見える

 

 

ただ、このなんの変哲もない男性が

仕事になると接客のプロになる

 

 

「おはようoくん!

 

大きな声と

自信に満ちた声色

 

そして屈託のない笑顔

 

 

「あ、はい、おはようございます

「おーっ!?今日もイケメンだね!

「そ、そんなこと、ないですよ

「ははははは!!!!

 

 

店内に響き渡る軽快な高笑い

店内は

 

 

白髪短髪メガネのおじちゃんと

黒い作業着を来た髭をはやした30だいくらいの男性

 

 

「おーい!お会計

「あー!おはようございますー!

 

 

店長駆け足でレジ内へ

 

 

「昨日のさ!昨日の!

「うなぎ!箸入ってなかったよ

「ほんとですか!

「しょうがないから手で食べたよ

「、、、、、

 

 

白髪のメガネのおじちゃんは軽快に笑いながら話す

 

 

僕は青色のカゴの中の

さまざまな真新しいパンを

次々棚に入れながら、横目で見る

 

 

「ありがとうございます!

「箸、入ってるね

「はははは!!

 

 

お客様も、店長も笑顔

笑って、そのままメガネのおじちゃんは

自動ドアを通り過ぎていく

 

 

「あの人、元々はとんでもないクレーマーだったんだよ

「え、ほんとですか

「毎回くるたび、店長よべ!!って大声で叫んで、来るまでそこを動かない人でさ

「まじですか、、、、

「だからこう、、、うまーくね

 

 

と言いながら掌をピンと伸ばし

仰向けに向けて

球を転がすようにいろんな角度に傾ける

 

 

「じゃあ並んだらまた呼んでね!

「あ、はい

「おい

「あ、はーい!!

「36番

「36番ですねー

「こちらで大丈夫ですか?

「違う

「あ、

 

店員、レジの後ろを目を泳がしながら見る

 

「これですね!

「焼き鳥、もも

「あ、はーい

 

店員、焼き鳥のトングを取る

袋を手に取る

袋を開こうとする

手間取り、袋をなにやらいじる

袋開いて焼き鳥を取ろうとする

 

 

「、、、?

 

 

「すみません、焼き鳥のなんでしたっけ?

「は?もも

「はい、すみません

 

 

店員、焼き鳥をトングで掴む

しかしうまくつかめない

トングで焼き鳥を触り続ける

 

 

「はい、

「おせえよ!お会計

 

 

「あ、はい

 

 

 

「あ、ありがとうございましたー、、、

 

はぁっとため息をつく

 

震える指

全身震えるいるかもしれない

 

 

 

「oくん笑顔できてないよ

 

 

 

暗いバックルーム、男性2人

 

「そうですか?できてますよ

「そんじゃ笑ってみ

 

店員、少し微笑む

 

「うーん、、、できてないよ

「ほら!これに向けてやってみ

「はい、、、

 

 

店長手鏡を持ってくる

店員、手鏡に向かって微笑む

 

 

「ほら、全然じゃん

「、、、、、、、

「もっとこう、、、こんなふうに!!

 

店長太陽のような笑顔

 

「はぁ、、、、

「ほらっ、やってみ!

「、、、、はい

 

 

店員、弾けるような笑顔

と同時に、止まらない動機

 

 

「そうそう!いいじゃん!!

「はぁっ、、、そうですかね

「そんな感じでやってみなよ

「oくんおばあちゃん受けにいいからさ

「そうなんですか?

「はははははは!!!

 

 

「いらっしゃいませ!!

店員少し微笑む

 

「ありがとうございます!

店員、やけくそで弾けるような笑顔

客、そっぽ向き自動ドアへ

 

 

「、、、いらっしゃいませ!!

店員やけくそで笑顔

 

 

「、、、、??

「ふふっ、、

 

笑う30代主婦さん

 

 

「いらっしゃいませ!!

店員、弾けるような笑顔

 

おばちゃん、クリームパンひとつレジに置く

 

「ええ、ええ、じゃあこれね

「はいお預かりします!

 

 

「ありがとうございます!

 

店員、笑う

 

「ええ、あ、

 

おばあちゃんたち止まり、無表情になって店員を見る

 

「、、、?

「んふふふww

 

おばちゃん、自動ドアにむかう

 

 

ーーーーーーーー

 

それからのことは

ずっと元気よく、笑顔で接客していただけ

 

後は言伝で

妹から一緒に働いているjkが僕を知ってるということ

なんか〇〇くんみたいと、言っているということ

jkが働く店に行き、、ラインidを伝えたこと

そしたら、相手からメッセージが来たということ

 

 

コンビニで働くまで全くの無表情と言っていい状態から

少なくとも、jkにそう言われるくらいには笑顔で接客できたわけだ

 

僕なんかたいしたことないけど

笑顔で明るい店長がいなかったら

 

今も僕は無表情だろう

 

 

彼の笑顔で明るい接客が

僕を変えた

社会に忘れられた場所

 

「学校いけ!!」

「嫌だ!!行かない!!」

 

 

登校拒否の中二男子

ゲーム器具が散乱する部屋で

大きな声が飛び交う

 

 

退屈であくびしか出ない授業

みんなに合わせて自由がない、縛られた環境の部活

どうでもいい先輩との関係

胸ぐらを掴まれ、腹パンされ、理不尽に殴られ

そして、仲間からの一斉とした白い目

 

 

「学校にはいいことがたくさんあるぞ!」

「どうして楽しくない学校に行かなきゃ行けないの?」

 

 

朝8時ごろに来ると自室ボロボロの扉が開く

 

毎朝尋ねてくるおじいちゃんは身長が高く、いつも部屋に来た

 

 

そして、9時だか10時だかになると帰っていく

 

 

そして、テレビをつけ、プレステを起動して

何かのソフトをプレイする

 

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信じられるだろうか、これが実際自分に起きたことだ

 

どちらが悪いとか、もうそんなことはどうでもいい

 

こんな意味のないことで消耗していた事実があるというのが、自分でも信じがたい、、

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テレビをつけ、なにかしらのゲームをつける

ドアが開き、妹が入ってくる

 

「もうok?」

「言ってやったよ、楽しくない場所だって」

「2階にも聞こえてたよ」

 

 

そう言いながら2人で画面を見つめる

 

コントローラーを渡すと、テレビがついて、オープニングの動画が流れる

 

 

いつもの映像と、いつもの音楽

映像には広大とした広場に1万もの人が密集している中

 

 

槍を持った1人の男性が彼らを蹴散らしていく

 

 

「キャラどうする?

「んーどうしよっかな

 

 

手のひらのコントローラ

○だか⬜︎だかついているボタンを

器用に押していく

 

 

画面を凝視し、細かいボタンを押し

2人並んで座って話している図

 

 

ずっとそれは変わらないまま

 

 

たまに声を大きくして

たまに前のめりになって

指が△だか×だかに激しく動いて

 

 

そうして外の景色は色を変えていく

 

 

窓から見える景色は変わらずとも

 

 

朝早い場合は薄暗く

 

昼になったら明るくなり

 

夕方になって、光が消えていく

 

そして夜になり、眠りに落ちる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

布団から飛び起き、夢から覚める

 

 

 

 

 

 

 

 

それは学校の景色

自分が学校に行っていて

友達と笑い合っている景色

 

 

不登校なんて現実はそこにはなく

虐められる現実もなく

ただ、楽しそうに笑っている

 

 

本当に、そんな夢を何度見ただろうか

10回以上見たその夢の中

 

 

不登校で苦しんでいる夢は見たことがない

 

 

飛び起き、うつ伏せで突っ伏し

ただただ、枕を濡らしていた

 

 

テレビの上にある時計は何時だっただろうか

そんなことも考えもせずに、枕を濡らした

 

 

「、、、、ぇっ、、、ぐ、、、

 

 

誰にも気づかれないように、声を殺して

そして気づかないうちに意識が遠のき

 

 

またいつもの朝がやってくる

 

 

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僕はこのまま一回も学校に行くことなく中学生活を終えました。

 

 

10年経った今になってわかることは

 

 

人に対して説教している間は一切変わらない

 

ということです。

 

 

身を通して経験していることだし

それは確信に変わりつつあります。

 

 

おじいちゃんも一生懸命だったのでしょう

 

 

ただ事実、変わることはありませんでした。

 

 

少なくとも妹の存在は欠かせないものでした

もし1人であの中にいたならば

 

 

もしかしたら、僕は今これをかけてないかもしれなかったですからね

圧に消された2人の物語

指先を動かしていく

 

瞬時に掌を返して

人差し指を曲げて

左指も動かして

 

 

ルービックキューブをいじっていく

 

手のひらに収まるそれは

ただのカラフルな四角い箱

 

赤、青、白、、、

6色の色がモザイクのように1面を彩っている

 

 

それを僕らは1つの面を1つの色で揃えたい

ないしは6面全部揃えたい

 

 

大丈夫、指先は自由に動く

左手で持って

右手を器用に動かしていく

 

 

10秒、20秒、、、

時間が経つごとに

 

9×9のモザイク色がだんだん

揃っていく

 

 

目を見開いて、口を閉じて

ひたすら動かしていく

 

 

あぐらをかいて、2人で並んで

 

 

「こら!そこ!何やってんの!!

 

 

一斉に周りの人がこちらを見る

その視線は忘れることができない

 

 

「全く、、、大事な会議だというのに、、ルービックキューブなんかいじって、、、、

 

 

部活が終わった後のホームルーム

 

吹奏楽部の部室の中

先輩、後輩含め三十人もの人が

 

 

おとなしい女の子が先生を直視しながら机に座ったり

またはイケイケ茶髪の先輩は退屈そうにあくびをしながら壁に寄りかかり

 

 

そして僕らは物陰に隠れ、このパズルを2人であぐらを描いていじっている

 

 

「チッ」

 

 

僕にしか聞こえないであろう舌打ちで

彼はそっとスクールバッグに未完成のモザイクをしまう

 

 

彼はそっぽを向け

僕は改めて先生の方を見る

 

 

整った顔と、色白、ほんのりかかる茶髪

 

 

彼は常にメガネをかけているが

 

時折メガネを外すと爽やかなイケメンになる

 

しかし彼はそんなことは気にもかけていないようで

モテるように見えるがそうでもない

 

 

たとえ同級生の女の子から告白されても

 

「あんな納豆臭え女、、、」

 

と一蹴するのだ。

 

 

何はともあれ

自分が好きなことになると構わず没頭する子だ

 

 

ルービックはその一部なだけだ

 

 

厚紙とカッター、セロハンテープがあれば

3×3の立方体パズルを作り

 

 

押すと静電気が出るおもちゃがあれば

静電気を強くして改造し

 

 

ボタンを押すと音が出るストラップがあれば

分解してしまう。

 

 

どこを押したら音が出るかを理解し

1センチにも満たないそのボタンを露出させてしまうのだ

 

 

僕は何度も機械の内部を見せてもらい

ただただ感心するばかりだった

 

 

そんな彼にルービックキューブを何も見ないで揃えるところを見せると

 

 

目を輝かせて飛びついた

 

 

自分でスピードキューブなるものを買い

学校に持ち込み、休み時間になると

ひとりガチャガチャと動かし始める

 

 

1ヶ月だか、2ヶ月だか知らないが

彼はあっという間に何も見ずに揃えられるようになった

 

 

「あらもうこんな時間なのー?それではまた明日4時に集まるように!

 

 

「お疲れ様でしたーー!

 

 

僕は気の入らない声で返事をし

ふと彼を見ると

 

またガチャガチャと音を鳴らしているのだ

 

 

前へ、前へ

息を荒げながら校門に向かう

 

 

友達も仲間も、ひったくれもない

早くしなければ

 

 

18時を過ぎて校門を出ようとすると

怪物教師が現れる

 

 

ジュディと呼ばれるその怪物は小柄ながらも

校門の番人だった

 

 

18時を過ぎるときつい説教が聞かされ

10分か、20分かした後校門を開けてくれる

 

 

早くしないと、奴が現れる

 

 

残念ながら今回は1分ほど手遅れだったみたいで

すでに人だかりができていた

 

 

彼らもまた、校門を通らなかった人たちだ

 

 

怪物ことジュディはなにを喋っているのかもよく聞き取れないが

何か怒っているようだ

 

 

その中で雑談を始める人

ジュディをなにやら説得しようとするもの

 

 

僕のように沈黙し、ただ、時を待つもの、反応はそれぞれだ

 

 

今回もどれくらい時間が立ったかわからないが解放してくれた

 

 

 

ゾロゾロと校門を出る仲間たち。

中には校門の外で、友達を待っている人もいるみたいだ

 

「よお

 

校門で一息ついていると

声が聞こえてきた

 

 

振り向くと特徴的なメガネが目に映る

 

 

見ると三人ほど集まって何か楽しそうに話している

 

 

身長が高い女と

全身が赤く腫れ上がっている男と

そして彼。

 

 

そして僕は30分ほど

楽しそうな彼らと共にくらい夜道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと彼と2人になる

先程四人で彼の掌が大きいという話になっていて気になっていた

 

 

試しに僕の掌と彼の掌を比べてみた

 

手と手を合わせ

掌を重ねる

 

 

すると背は僕の方が高いのに

彼の方が一関節分ほど、掌が大きく、指が長かった

 

「えー大きいね

 

少し大きいとか、そんな比じゃない

明らか大きかったんだ

 

 

どうして今まで気づかなかったのだろうか

 

 

そんな彼なら、手のひらに収まるあのパズルも

僕より早く揃えられるかもしれない

 

 

「じゃーなー

 

僕の家の前で別れる

 

 

しかし、それから

彼がどうなったかはわからない

結局どうなったのか?

 

 

先輩とのすれ違いざまの腹パン

他の生徒がいる中で胸ぐらを掴む先輩

 

 

突然頭に衝撃が走り

持っていた漫画を掠め取られた感覚

 

 

眉間にシワを寄せ口やかましく、甲高い声で

さえずるちびっこい先輩

 

 

多分僕に言っているんだろう

何を言ってるのかよくわからないし

何が言いたいのか伝わってこないけど

 

 

ただ僕はその中で特に言い返すこともなかった

なんか言ってるなと

 

 

しかし、何かしらの恐怖は感じた

一斉にこちらを見る無表情の目

 

 

漠然とした恐怖感

腹の底からなにか湧き出てくるような

そんな恐怖感

 

 

いつの日から、部室に

ましてや、上履きを履くこともなくなった

 

 

人への恐怖感だけを常に持ちながら

 

 

彼があの後ルービックキューブを早く揃えられるようになったのか

またはやめてしまったのか知らない

 

 

ただ知ってるのは、ふと立ち寄ったコンビニで

彼が食い入るように漫画を見ていた後ろ姿

 

 

話しかけることが怖くて、気づかれないようにコンビニを出た

 

 

その時の彼はスクールバッグを肩にかけ

直立不動で漫画を見ていた

 

 

隣には誰もいなかった

批判を恐れず、輪に飛び込んだ挑戦者、oくんの話

2人に激怒されるoくん

 

しかしおもしろがり、笑い、全力で校庭を横断していく

 

 

そしてまた次の日も彼と、僕と、kくんと三人で遊ぶのだ

 

 

彼はチャレンジャー、挑戦者だ

しかも批判、拒絶もものともしない

 

彼と知り合ったのは

小学3年生

僕ともうひとりの友達と仲が良かったとき

 

 

やや小柄で

よく笑い

 

笑った時、前歯が欠けているのが印象的だった

 

 

最初は僕と友達と2人で遊んでいて

彼、oくんの姿はなかった

 

 

ただ、結果として3にんであそぶようになった

 

 

普通は腰につけて回して遊ぶ楽しいフラフープを

 

 

校庭の隅で乱暴に振り回し、フラフープどうしで激しく、三人でぶつけ合っている図は

なかなかにシュールに写るだろう

 

 

しかも時たま体に当たる

 

「いてぇ!!」

そうすると横腹に激痛が走り

 

2人は僕を見る

遊び中断。

 

 

「どっちだ!!」

 

 

大声で喋り

こいつだ!と思う

そのときはたまたまoくん。

 

 

大股でoくん向かって歩いていく

 

 

般若の形相だったに違いない

眉間にシワを寄せ、無言で真っ直ぐ歩いていく

 

 

そうすると彼は少し笑いながら走って逃げていく

 

 

彼は一つの友達のわに突撃して、場所を勝ち取った。

 

 

他にもいろんな人たちがいる

kくんと僕以上にに魅力的なところがあるかもしれない

 

 

また、拒絶されるかもしれない

お前は無理だと、言われるかもしれない

 

 

しかし彼は恐れなかった

選び、自分の居場所を勝ち取った

 

 

僕は正直何もしてないが

きっとkくんの寛大な心と

oくんの力強い意志のおかげだろうと思う

 

 

彼は批判を恐れずに輪に飛び込み

居場所を掴んだ

 

 

拒絶も十分にされるかもしれない

彼1人で飛び込んだ

 

 

両親の離婚

両親の別居

 

 

引っ越す時、彼と別れる時

最後にパックンチョをくれた

 

 

手作りで、いろんなメッセージが込められていた

 

「元気でね」

「また会おう」

 

この文みたいにきれいな文字じゃない

だけど、僕はそんな字でも、なんでもそうだけど

魂がこもっているものが好きだ

 

 

開くたびに文字を変える彼お手製のパックンチョに

今後10回以上にわたって泣かされることになった

 

 

 

kくん

僕という記憶はここから始まっている

 

いろんな遊びを思いつき、周りを巻き込む

kくんと時を二人で遊びまくったことから

 

数字がわかる

それまで1年2年と一組だった

3年も一組だった

 

僕の苗字はoで彼の魅了時はkだ

出席番号が近かったのかわからないけど

いつのまにか二人で遊ぶようになっていた

 

 

彼は遊びを作る天才だった

紙とペンでrpgを使った

定規で飛ばして遊んだ

 

 

なによりいつも白黒のボーダーの服が印象的で

髪はおかっぱ頭

 

 

決して目立つ見た目でかったけど

ほぼ毎日同じような格好だったので

ものすごく印象的だった

 

 

またよくわからない遊びもした

 

 

トイレのドアノブに触らず、トイレから出るために

「どうぞどうぞ」と言って

周りの人に開けさせたり

 

 

じぶんのすきないろのフラフープを選んで

二人でぶつけ合う遊びだったり

 

 

(少なくとも、どうぞどうぞは先生に注意されるくらい、きとくな遊びだった。)

 

 

彼は先生からの注意や周りを気にすることはなかった

なによりも、遊びを作り、やる

それをやっていた人だった

 

 

結果、いろんな人が集まってきた

 

 

kくんと僕も含め、ドロケイをやる程度には人が集まっていた

 

 

それは突如、僕の家庭の事情で終わりを迎えた。

 

引っ越すことなった

 

 

それを周りが知っている間

休み時間に声をかけたことがある

 

「話しかけんな!!」

 

彼と休み時間一緒に遊ばなかったこと

彼と遊ぶことを拒絶されたのは初めてかもしれない

 

 

彼はこの時、絵を描いていた

別れゆく友に向けて

 

 

後になって、虹を書いた紙をくれた

 

 

その紙は無くしてしまった

この記憶も色あせていくだろう

 

 

変化して、歪んで

いずれなかったことのようになるかもしれない

 

 

描いているこの時ですら、ある程度は歪んでいるところもあるだろう

 

 

けどどうしても

僕が誰かを伝えるためには

 

 

彼の存在は必要不可欠だ

 

何度も何度も書き直した

三十人以上の人の話を書いた

 

 

しかし書いておもったのは

 

 

「彼の存在、僕の人生ででかくね?」

 

 

という結論

それは信念に変わりつつあります。

 

 

彼を失ったからこそ

気づいたことだから