失踪記

 

 

すでに薄暗く、肌寒い

 

 

ただ、目の前に広がる大海と、空

 

 

空はオレンジ

 

快晴、雲がポツリと一つ

 

海は青黒く

うなって、形を変えていく

 

 

それを一人、僕一人で見つめていた

 

 

朱色、白のコンクリート

模様をなす

 

 

整えられた地面に

 

 

椅子を引くわけでも

立つわけでもなく

 

 

地べたに、体育座りで

 

 

ユニクロで買った

もこもこのコートを着て

 

 

所々破け

海と似たような色のコートを羽織って

 

 

指先に極寒の風を感じながら

 

 

ただ海を見つめていた。

 

 

当時の僕は

どうしてここにいるのか?

 

 

自分でもわからなかっただろう。

 

 

ただ、どこでもよかった

 

 

ただ、歩いた。

 

 

学校と自宅の行き来の日々から

 

家で誰とも話すことなくゲームをする日々から

 

授業の内容もよくわからず、友達もできない現実から

 

 

当時はよくわからなかったけど

これらから逃げ出したかったのかもしれない

 

 

ただ、体育座りして、空を見る

 

 

何見たくなかったのかもしれない

 

 

 

 

高校、ゲーム専攻

 

 

これが僕に与えられた役割

 

 

役割?

 

確かに入学時に

机を挟んで、先生と話した時

 

 

「翔吾はゲームが好きだから

と母の声

 

 

母が決め、僕はうなずく

 

 

本当に?

 

本当にゲームが好きなのか?

 

 

僕が高校に行っているのは

僕なのか?

 

 

僕が決めたのか?

どうなんだ?

 

 

母か?僕か?

 

 

ゲームを作る?僕が?

 

 

さっぱりわからない

 

 

高校の教室に毎日通っても

僕はどこか他人事に見えていた

 

 

なんだそれは?

プログラム?二進法?

 

 

習ってわかるが

 

 

それを僕はやりたいのか?

 

 

机に座り、授業を聞き

先生の話を聞いても

 

 

僕はやりたいのか?

それはわからなった

 

 

何より、授業の内容を

誰に話すこともなかった

 

 

母にも。

 

 

母が決め、放置

 

いや、本当に母が決めたことなのか?

 

僕も同意した

 

 

だけど、、、僕は別に

別段それがやりたいわけではなかった

 

 

それが本音だ。

それが僕だ。

 

 

自分自身の決断を

自分自身の人生を

 

 

自分自身が蔑ろにしていた

 

 

しかし僕に何ができよう

 

 

高校は勝手に決められ

同意を求められて適当に返事してしまう自分に

 

 

母は僕を考えてくれていたような気がしていた

 

しかし、本当に考えているのか?

 

 

いままで

 

学校の話

友達の話

部活の話

 

 

何にしても母と話して

楽しかった記憶がない

 

 

いや、母が悪いのではない

何にしても、自分の人生を蔑ろにする僕がいけないのだ。

 

 

高校に行くと決められ、僕に何ができよう

 

 

歩いて、学校じゃないどこかに行くことしか

この時はできなかった

 

 

 

 

 

 

「ゲーム専攻はこの時間割です!紙あとで見てねー!!

 

 

時間割、決められたこと

 

 

僕にはどうしようもないことだ

 

 

「げぇっ!めっちゃなげぇじゃーん!

 

「この時間どうする?

 

「木曜日は休みかー

 

 

いろんな声が聞こえる中

僕は一人で紙を見ていた

 

 

、、、、多くないか?

 

 

茫然と一人で時間割を見ていた

 

 

周りには

 

男二人で声大きく話す人たちや

女の子同士で何やら楽しそうに話している人がいる

 

 

 

僕は一人だった

 

 

 

「二進数は〜〜

 

ぼんやりと先生を見る

 

 

教室2個分くらいの、広い部屋

 

 

そこには机とパソコンがずらっと並び

それぞれに椅子が置いてある

 

 

生徒一人一人がそこに座り

一人一台、パソコンが使える

 

 

「では始め!!

 

 

ん?何か始まった気がする

 

みんなに合わせ、椅子をパソコンに向ける

 

紙が来たので

それ通りにやってみる

 

 

「、、、??

何だこれは

 

 

筆が止まる

 

 

周りを見渡してみると

皆無我夢中で書いている

 

 

無音の教室に響く

シャーペンの音

 

 

「、、、、、、、

 

 

筆が止まったまま、動かない

 

 

左手で頭を抱え

膝をつく

 

 

右手で持つペンは一切動かない

 

 

視点も動かず、ある一点を見つめる

 

 

Windowsの旗のロゴ

なんで4色なんだろう

 

 

「はい、回収します

 

 

ハッとし、目を起こす

ほぼ真っ白な紙を前の人に渡す

 

 

バツが悪い

目を伏せて次の人にプリントを渡す

 

 

すると一斉に立ち上がるので

僕も立ち上がる

 

 

「お前何食べる?

「俺はぁ!カレーが食べたい気分!

 

 

ああ、飯か。

 

 

僕は一人外に出て

コンビニで菓子パンを買い

公園で一人で食べるのだった